ARASHIの月面ライブ

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アイドルファンダムに未来はあるのか?【前編】

概要

・ファンダムの活動はファンにとっても、音楽業界にとっても、メリットがある

・だが一方でもたらす影響には負の側面もあり、参加するファンや市場への"健康被害"も発生する

 

 

 

先日より応援活動を(というより応援活動に使っているSNSアカウントを)お休みしている者です。休んでいるといいながら時々息抜きにツイートしている者です。

というのも、先月11月にいろんなことが起きたのをきっかけに「アイドルのファンダム」をよく見直さねばならないと思い始めました。

TeamARASHIでの活動の影響だけでなく、これまでのファン人生で出会ってきたいろんなタイプ・年齢層のファンや、他の界隈のファン(YouTuber、韓国発アイドル)との関わりを経て、ファンダムって何だろう?ということを多分世界一真剣に考えています。

 

ファンダムについて「こんなに素晴らしいのだ」という研究がある一方、

ファンダムってこの先必要?ちょっとやりすぎじゃないか?」という点、

何より「嵐のファンってファンダム無理なんじゃない?

という疑問が浮かんだので、価値だけではなく消極的な意見と打開策を述べることにしたのです。

とある理由でこのことを発信しなければならなくなったので、応援に水をささない言い方ができるよう配慮しつつ、率直な意見を語ろうと思います。

 

 

■アイドルのファンダムって何をしているの?

ネットで検索するとわかりますが「ファンダム」についての論文や本、記事というのは既に色々と登場しています。もともと「ファンダム」というのは歌手やスポーツ選手などの熱狂的なファン集団を指しています。熱狂的応援の文化そのものをいうこともあります。

 

近年はマーケティングの視点で「売り上げのほとんどを占めるファンに向けてものを売り出し、熱心なファンにものを広報してもらえるようにしよう」みたいな『ファンマーケティング』という考え方があり、実際にそれを打ち出している企業もあります。

アイドル産業でいったら、BTSをはじめとしたK-POP系アイドルのファンを筆頭に「ファンダム」ができはじめています。

www.hmv.co.jp

 

・「推しているアイドルを多くの人に広めたいから」というプロモーター的な役割を自主的に担う(ラジオへのリクエストなど)

・「このアイドル超かっこいい!」と元々のコンテンツを二次創作してSNSで拡散しまくる(動画再編集、翻訳など)

・推しが音楽チャートを獲ったら業界に需要をアピールできるので購入・大量消費する(ストリーミングパーティーなど)

 

主にこのような活動をし、ソーシャルメディアやアプリの特性も活かしながら(ストリーミング数が多いと他のユーザーにおすすめとして出てくる、みたいな)とにかく推しのアイドルについて拡散しまくるのです。

このヲタ活自体は別に1人でもできるのですが、ファンダムの場合はより大規模に活動をします。アイドルファンダムの源流・K-POP各地で時間をあわせてストリーミングパーティーをしたり、かなり研究を重ねたラジオリクエストをしたり、お金を集めてニューヨークに推しの街頭広告を出稿したりするのです。最終的に世界に「K-POP」という音楽のジャンルや部門が確立されています。

日本発の日本人アーティストとそのファンダムの事例ははっきり言ってまだ少ない感じがしますが、おおむね同じような活動をしているのが見受けられます。

 

SNSを拠点にするメリット

現代のファンダム活動は、ソーシャルメディア発という例が多数です。

 

ソーシャルメディア(サブスク、YouTubeTwitter、インスタなどなど)上にコンテンツがあるから

・場所にこだわらずどこからでもコミュニケーションがとれるから

 

という理由でSNSでヲタ活をする人が出てきているのですが、SNSでファンダムが作られやすいのはSNSにある特徴がみられるからです。

ソーシャルメディアは「自分の興味があること」を自ら探しに行くプル型のメディアといわれており、好きなコンテンツを追いやすいだけでなく、同じ趣味や志の人を探しやすくもあります。

自身の趣味について、気軽に他者と共有しあったり言葉にしあったりするような楽しみがSNSにはあります。

ファンダムにいる人たちで置き換えて考えると、「アイドルが好き」「アイドルが世界で活躍できるように応援したい」という気持ちの人が集まりやすい、その場所こそSNSだったということです。

 

 

■ファンにとっての「ファンダム」のメリット

ところで、アイドルを含めたさまざまなファンのヲタ活についての研究『「ヲタ活」に見る若者の消費行動と心理― 享楽志向と承認欲求が支える献身的消費 ―』が示す通り、

https://www.j-mac.or.jp/oral/fdwn.php?os_id=256

グッズを買い集めたいとか、ヲタ活を通してお友だちを作りたいなど、近年みられるヲタ活というのは1人や数人の中で完結するような行動ばかりです。

※こちらの調査は女子高校生・女子大学生・女子専門学生が対象なのでなんともですが

 

では、あえてSNS上でファンダムと化し、そこで盛り上がる理由は何でしょう?なぜファンはファンダムに居続けるのでしょうか。

考えられる理由の1つは、前述の通り「同好の士を見つける楽しさ」ですが、他には「帰属意識が芽生える」ことです。

 

同じ目的で頑張る人たちとの絆を育むことができる、ということは容易に想像がつくと思いますが…ファンそれぞれができることを成し遂げることで存在意義を見いだし、役目を与えられます。

個々人の能力やアイデアが空間で発揮され、誰かのアイデアを叶えられる人間が形にする。そうした行動が人を結びつけ、匿名でもつながりをもつというコミュニティを形成していく。その機会こそがファンダムなのです。

「動画をつくったり翻訳をしたりグッズをつくったりといった個々のファンがそれぞれもっている能力を、自由に発動できる空間をつくっていったということですね」(山下 2022:31)

presidentstore.jp

趣味を続ける過程ではコミュニティのなかで役職を得たり、趣味がアイデンティティの一部になっていたりする。その趣味をやっていない人に比べれば、趣味に生きている人は相当「専門的」なことをしているのである。(杉山 2021:ⅶ)

www.nakanishiya.co.jp

 

また『ファンダムエコノミー入門』では、ファンダムにいると学びを得られる、という良さも述べられています。

与えられたものをそのまま消費するのではなく、創作し熱中することで学びを自分たちの手に取り戻す「自律的な学び」。成長や生産性がなくとも時間を愉しむことで生活の彩りとなる「円環的な学び」。そしてファン活動を行為の連鎖ととらえ「ギブ/ゲット」し合うことで知識や技術が伝播され他者へ広がる「共愉的な学び」である。(岡部 2022:92)

活動を通して、人とのいい感じのやり取り(笑)の仕方やツイッターの使い方、画像編集の仕方、語学などのスキルが上がるだけでなく、とにかくファンダムにいると充実できて、そこにファンは価値を見出しているので、ファンダムは形成されていくのだと思われます。ファンダムは学校や職場、家族とも違うサード・プレイスになっています。

 

 

■業界にとってのファンダム

『ファンマーケティング』という考え方について紹介しましたが、業界にとってのファンダムの存在は大きいと考えられます。

固定ファン・熱狂的なファンは積極的に購買や消費(ストリーミングなど)をしてくれるし、勝手にいろんな人へアイドルを広めようとする(=シェア・宣伝)。

結束して【売り上げ増または安定】・【新規ファン増】・【SNSでの盛り上げ】に「貢献」します。ファンダムを味方につければ売り上げはアップします。ファンダムの規模が大きくなるか活動的になるほど、ファンダムの貢献度がアップしていきます。

元々のファンがファンではない人にアイドルを広め、ファンではない人をファンにし、また新たなファンを生む…テレビというマスメディアからソーシャルメディアに移行したことで、ファン獲得のルートも変わってきているのです。

 

 

■ファンダム活動がもたらす「悪」の側面

ファンダムって絶対的に良い存在なのか?というと、そうとは限りません。

たとえば

 

活動にドはまりしすぎて生活に支障が出始める

ファンダムで活動をするファン本人は、好きなアイドルのために応援することが好きです。本人は楽しくやっていても、実は活動にかける費用や時間といった労力の負担が大きくなっている。いまの日本はせいぜい音楽チャートくらいなものですが、韓国ではしょっちゅうチャートを争うような場面があるので勝った負けたという一喜一憂も多い。精神面での疲労も蓄積しかねません。

ほかにも、ラジオを見張る、ストリーミングイベントのホストをする、画像編集をする、プログラミングをする、毎週データの記録をするという仕事の労力もあります。でも本人はいたって楽しくやっていたりする。

ファンダム内でもめごとが起きると、ファンダムは自治の機能がないに等しいので、人間関係で疲労する可能性もあります。

 

・ファンダムが発言力もつ(権力の均衡

・事務所や運営がファンダムに頼りだす

売り上げのほとんどを占め、加えて熱心に応援活動をしているファンダムがどんどん大きくなっていってしまうと、アイドルや運営がファンダムなしにはうまくいかなくなる...くらいの影響力をもってしまいます。不買運動・中傷するハッシュタグSNSで過度な煽動をする・運営が認めていない運動を実際に起こしてしまえばニュースになってしまいます。

 

アイドルはファンへ「活動頑張ってくれ」とは言える立場にありません。

ファンに労力をかけることを強いるのを、ジャニーズは嫌っている傾向がうかがえます(チケットは当たりませんが)。逆に、運営が熱心なファンダムに味を占めて利用しようなんてことがあると、アイドルの意思もきかずにファンダムに向けて大量のコンテンツを売り出します。

ファンダムをはじめとしたファンが求める「完璧なアイドル」「ファンが好きな曲やコンセプト」を運営が作り出そうとするかもしれません。それはアイドルにとってのプレッシャーになります。

 

アイドル「こういう趣向を取り入れた歌を…」

ファン「興味ない。わちゃわちゃした曲がいい」

運営「ファンに好かれないからやめよう」

アイドル「無理だ」

ファン「陰謀だ!」

 

・ファン人気、というイメージダウン

ファンダム活動をしすぎると、かえってアイドルのためにならない結果に終わる可能性もあります。最近Billboard JAPANが指標を変えてきましたが、要はチャートで上位を狙うためにあれやこれやとファンが購入・消費を繰り返すと「一部のファンによる不正な再生数稼ぎだ」などという印象をもたれて(不正はしていなくても)大衆からスルーされてしまいます。

大衆は決してアホではありませんので「どこがどう良い曲なのか」という宣伝もセットでやらないと、無駄に終わります。それはいつかのCD大量購入と一緒です。一部の狂信者による人気なんだな、という印象をもたれてしまいます。

Billboard JAPANもチャートハックという過剰なストリーミング行為を指摘し「曲を聴いているとはいえない」と。

kai-you.net

Twitter指標がなくなっても曲名をツイートしよう、という考え方は「チャートがどうなろうと口コミは重要だ」ということです。「じゃあ1位になる要素にならないならやめよう」っていうのはおかしい。1位になることは真の目的としてふさわしくない。

 

 

■現に事務所がファンを囲いすぎ

ここまで「ファンダム」を今でいう「インターネット上に集まっているいち集団、応援垢の人々」のような定義で書きましたが、コンサートの予習用や特典のためにCDは欠かさず買う固定客もファンダムっちゃファンダムです。熱狂的ファンに変わりは無い。

【ファンダムのせい】だけでなく【事務所がファンダムを囲ったせい】で起きる問題もある。著作権や肖像権のことで遅れをとったことです。

新規ファン開拓よりも固定客を大事に!というマーケティングの方法もありますが、ジャニーズはあまりにもファンを囲いすぎる。「買わないとフルで見れないコンテンツ(YouTubeのショートMV)」・「テレビ以外の映像の露出(ほぼ有料FC動画、たまにSNS)」・「サブスク未解禁(CDのみ)」という固定客ありきの売り方をしています。

その環境下でタレントが「広い世界に行きたい=他の地域でライブしたい、知名度上げたい」という声をあげたとして、どれだけファンが拾えるのか?非常に難しいでしょう。

知名度を上げたい!というファン生活をする環境は、ジャニーズの文化に用意されていない。叶えるために何ができるか?知識を蓄える発想に至るはずがないのです。だから逆に、海外進出を目指す計画が始まっても、何も対応するすべがファンに養われない。たとえば

ARASHI on Instagram: "明日20日(月)から、 メンバー全員が毎日インスタストーリーを更新する新企画が始動! 嵐公式Instagramを是非みてね! Starting tomorrow, ARASHI is going to be taking over on Instagram Stories! #嵐 #ARASHI"

グローバルネームが「Sho」「Jun」「Ohno」「Aiba」「Nino」→この名前を推せ!という意図が伝わらない。

 

 

■まとめ

ファンダムはファンにとって、業界や市場にとって価値があり、それと同時にさまざまな問題を起こす危険性ももっています。

ファンダムの中にいれば楽しくて気づけなくても、アイドル産業と社会とのつながりをダメにして、アイドルの不利益になりかねないことだってあります。

 

後編はそれとは別に、今現在Teamを含めファンダムが抱えている「問題」とその解決を自分なりに考えています。

 
 アイドルファンダムに未来はあるのか?【後編】 - ARASHIの月面ライブ