ある夜、弟が私に酒缶を買ってきてくれた。それはサントリーが発売した、とあるスパークリングワインだ。
私はその企業名を見るや否や言った。
「ありがとう、でもサントリーは飲まないようにしているんだよ」
SUNTORYといえば、社長・新浪剛史氏が経済同友会代表幹事として批判した旧ジャニーズ事務所をめぐる問題が浮かぶ。
・今後ジャニーズとは契約をしない宣言
・「ジャニーズ上層部が反省しているとは思えない」
・「タレントを起用することは青少年への性犯罪を認めたことになってしまう」(意訳?)
・これらの批判に耳を傾けたであろう日本企業がどんどんジャニーズタレントのスポンサー契約打ち切り・見合わせる
さらに
・韓国芸能の日本参入を後押ししている
・日本ウイグル(中国など一部地域の民族)協会会長の批判を無視して中国(人権無視国家)とのビジネス展開
・自身の会社社員へのパワハラ報道
という企業・社長への不信感が募り、元々繰り広げられていたサントリー不買運動を強く意識していたからです。
「つまり、最低なことを言ったから私はサントリーを買いたくないんだ。買わないようにしてるというか、とにかく買いたくない」
だからごめん、言ってなかったけど今後も買わないでほしいという旨を弟に話しました。
弟はこう返しました。
「勝手にやって、俺は買うから」
まあ確かにジャニーズとか人権とか政治ごとに興味のない若者には関係の無いことだから、強制するのはおかしいか。
でも、私の中ではサントリーがどれほどのことを事務所やタレントにしたのか、消費者を裏切ったかを思うと許せなくなったので
「いやいや、サントリーはあんなに酷い仕打ちをした上に自分だって人権侵害をしているんだ」
と反論しました。
すると、弟はこう話し始めました。
「違う。社長のしたことは批判すべき。だけど、この商品が悪いわけじゃない」
以下は括弧づけなしですが、彼が話した内容です。
★
俺はこの商品のパッケージや内容を見て、美味しそうだから買った。お姉ちゃんに飲んでほしくて買ってきた。
この商品に携わっている人達ははみんな、この酒を美味しくしようと頑張って作っている。売れるためにどうするか考えて作られた。俺はそこを評価して買ってきたんだ。
本質を見ないのは、サントリーの社長やアサヒ、他の企業こそそうだ。タレントの人気や実力を見込んで起用したのに、今になって事務所がどうとかいう理由でスポンサーを打ち切る?タレント1人1人を「人」として見ていない証拠だ。これまでタレントたちだって必死こいて頑張ってきた。売れるために実力をつける努力をして、イメージを守ってきた。
対する企業の姿勢は「タレント1人1人を一切評価しない」と言ったようなものだ。
俺は、そもそも本質を見ない買い物に理解がない。誰かが使ってるから、誰かが広告塔だから買うとか。今まで自分が嫌いだったものまで、好きな人が使ってるという理由で買うみたいなことに理解がない。だけど、それはそういう消費者もいるんだなというふうに飲み込んでる。
第一、何もせず商品が売れるならCMなど必要ない。パッケージもないまっさらな缶をただ売ればいい。それを、あえてタレントを使って宣伝してきた。少なからずタレントに売上アップの効果を期待したからだろう。
ビジネスの取引である以上、商品のイメージを考えると打ち切りは仕方ない部分もあると思うが、それなら「今まで我社の商品のイメージアップに貢献していただきましたが、お客様へのイメージの問題もあるので見送らせていただきます。今までありがとうございました」くらいのコメントはできないのか?お前たち企業は恩を知らないのか?
★
私は泣きそうだった。
こんな世界になってしまったこと、自分は何も変えることができなかった無力感で悔しかった。
この弟の話の節々には共感できる点がいくつかある。
この商品、広告にそれぞれ携わった人間がいる。みんな、より良いものを作ろうと頑張っていたはず。それがこんなおかしなことで全部めちゃくちゃになって、たまったもんじゃないはず。何なら、該当する企業で働くオタクもいるに違いない。
「何してくれてんねんジャニーズ」と思うなら、「何してくれてんねん新浪社長」って言ってやってください。
ワイン屋さん「この商品は本当に美味しいんです!」
私「いやいや、私は新浪おじいさんの発言に腹が立ったのでサントリー買いません」
ワイン屋さん「いやいや、そうは言ってもこのお酒は画期的なんです!」
私「知りません、サントリーなんだから」
こう考えると、新浪氏がそう判断せざるを得なかったジャニーズ事務所、の問題をほぼ確定で嘘なのにでっちあげた人達が悪いのはもちろんですが
私も大概なことを言ってるんじゃねえかとは多少は思う。
タレントに罪は無い、とずっとオタクがSNSで訴え続けてきたわけだが、真に人権や物事の本質ということを考えれば、弟が言う「タレントの人格や実力を見てない企業」という批判を続けるべきではないか。
ビジネスを考えれば、本件を機にイメージダウンを懸念する姿勢は理解できる。ただ、スポンサーを降りた企業のほとんどは「タレントを起用すると、性加害を認めたことになる」みたいなことをコメントしている。なるか?ならんだろ。
企業こそ、タレント個人を正当に評価しない人権侵害を犯している。その企業に関わると人権侵害に加担していることになりますよね?
これほど購買意欲が高く口コミで売上に貢献した界隈はないと思う。確かなエビデンスはないが、少なくともこの10年は各企業が旧ジャニーズタレントを起用していたのだから、我々オタクと企業の関係については間違いないだろう。
私はタレントのファンだから、自分の見解に歪みがあるとは思う。新浪氏がご自身のことを棚に上げて人権問題に触れたので、こちらもあなたの存在を認めないためにサントリー商品を避けているだけ。
しかし、弟のような
商品は買うけど、お前たち企業への信頼は失った
という消費者の意見は、企業はきちんと聞くべきだ。
私は未だにサントリーの商品を買うに至らない。買おうと思える日が来るかわからない。世の中への失望は絶えない。
ただ、弟が買ってきた酒はちゃんと飲んだ。めちゃくちゃ美味しかった。私は本質が見えていないが、それは企業の上層部や社会も同じことなんだ。
この味を研究した人やデザイナーや販促などの企画の方々には、どうか"気づいて"もらいたい。